大切なものは

第 12 話


「危ない!」

その音が何かを頭が理解するより早く、体は動いていた。
そして、司令官の席に腰を下ろしていたジュリアスを抱え上げ、その重厚な椅子の背に身を隠した。それと、銃声が鳴り響くのはほぼ同時だった。そう、先程の金属音は撃鉄の音、そして安全装置が外れた音。銃声は一つではなく複数で、彼の言葉が正しかったことを証明していた。

「まて、撃つな!椅子の後ろに隠れている、取り囲め!」

この基地の司令官だった男が叫ぶと、銃声が鳴り止んだ。

「馬鹿な男だ」

ジュリアスが呟くより早く、騎士は行動を起こした。
この場合、威嚇射撃を続けながら数名が椅子の裏に回り込み、撃つべきだろう。全員が射撃を止めるなど、馬鹿としか言えない。なぜなら、ここにはナイトオブラウンズが、その実力故にナンバーズから召し抱えられた異例の騎士がいたのだから。
飛び出すと同時に、まるで一陣の風のような素早い動きで駆け抜け、銃を構えていた男たちを蹴り倒していく。慌てて照準を合わせ、引き金を引くがもう遅い。この男に銃は効かない。引き金を引いたところで当たりはしないのだ。

『どうした!?何があった!?スザク!ジュリアス!!』
『なんだ?まさか、司令室を襲撃されたとか言わないよなぁ?そこにはイレブンもいるはずだが?』

銃声が聞こえたのだろう、スリーの焦る声と、テンの馬鹿にする声が聞こえてきた。銃声と悲鳴をバックミュジックに、ジュリアスは指示を出す。

「お前たちが心配することではない、作戦を進める。テンはグラウサム・ヴァルキリエ隊と共に北北東に展開している敵本陣へ攻撃を仕掛けろ。スリーは北東にある補給基地を破壊後、南へ下り敵の進行を食い止めろ」
『へぇ、そこに敵本陣がねぇ?』
「ああ、間違いない。そこを落とせば戦況は一変する」

当然だ、本陣には敵の指揮官もいる敵の心臓部。
そこを潰してしまえば、頭を無くした兵士などただの雑魚に成り下がる。
ジュリアスは指示を出しながらゆらりと立ち上がった。この場にいるものたちは、鬼神の如き強さのスザクに意識が向き、もうジュリアスのことなど見ては居ない。だから、堂々と司令官の席に座ると、モニターを確認した。
銃弾を避け、裏切り者たちを蹴り倒すスザクの姿に何故か心が躍る。
普段から鋭い眼差しのスザクだが、戦闘となればその表情はまた変化し、まさに戦う男の姿になる。普段のやり取りは別とし、自分の理想とする騎士の姿は、スザクと重なる面が多い。だからこそ、友人となったのだろう。重火器を装備している相手に素手で戦うなど、普通であれば愚かとしか言えないが、それでこそお前だと、ジュリアスは楽しげに目を細めた。
北北東に展開し始めたテンとグラウサム・ヴァルキリエ隊に気づいた敵は、その陣形を大きく崩した。それもそうだろう、そちらに本陣があると、ブリタニア側は気づいていないと思っていたのだから。そこがどこよりも手薄なのだ。本陣を守るため引き返す事で、今はまだ確認されていない敵の弱点がそこにあるのだと、言っているようなものだ。
ルキアーノも当然それに気づき、名ばかりの軍師ではないのだと理解し、楽しげに口元を歪めた。今まで勝てると思っていた戦が一瞬で負け戦に変わる。その恐怖に顔を歪めるだろう敵を想像したのだ。
ただ攻めるだけでよかった戦局が一転し、守りに入った敵は脆く、補給基地も破壊されてしまえば士気も一気に落ちた。次々と集結する本陣の守りだが、それもまた楽しいと、ルキアーノは思う存分暴れ続けた。ジノが南の最前線へと戻った頃には、既に勝敗は決して居た。
テンとスリーの戦場も、セブンの戦場も。
司令官室は硝煙の匂いが立ち込めていたが、血の匂いはほんの僅かだった。
スザクは圧倒的な身体能力を生かし、結局重火器も刃物も使うこと無くこの場を制圧してしまった。念のためにと、今は全員の身体を拘束している最中だ。 こちらの異変は当然敵側に筒抜けで、それが更に動揺を誘ったことは間違いない。全員を縛り終えたスザクは、立ち上がるとジュリアスを見た。

「全て、予定通りだ。これでここもようやく陛下の指揮下に戻るだろう」
「予定通り・・・ここの駐屯軍が敵に寝返っていたのも、全て知っていたと?」
「当然だ。だからこそ、テンとスリー、二人のラウンズを借り受けたのだ。本来であれば、戦場にテンを、ここにスリーを配置する予定だったが、お前が来たことで、予定より早く制圧できた」

戦場に二人配置できたのは大きいとジュリアスは笑った。

「・・・この基地全員が寝返っていた?」

ふと気になり、スザクは呟いた。

「ロイドたちを心配しているなら、不要な心配だな。手は打っている」
「・・・何をした?」
「ロイドだけではない、スリーとテンのチームも全て動かし、この司令室以外は無力化させている」

技術者たちも軍人だ。
非常事態となれば戦闘も行う。
今回は、敵の只中に飛び込むため、彼らには極秘にある指示を出していた。
何事もなければよし。
だが、ジュリアスが特定の言葉を発したときには、迷わず実行するようにと。 技術者たちも各場所で戦況を見ていた。
当然ジュリアスの言葉も聞いていた。
ラウンズのKMFを任されている彼らの配置場所には、この基地の人間であっても許可がなければ原則立ち入ることは許されない。だからその出入り口となる場所を封鎖し、施設のシステムに侵入し空調をいじらせたのだ。システムのパスワードは、もちろんビスマルクより預かったものなので、ハッキングとは違う。
司令室と、自分たちがいる倉庫以外の空調をいじり、そこに催涙ガスを流す。
すでに、監視カメラも全てロイドたちの支配下にある。

「この基地の人間は全て把握している」

話をしている間に、敵の本陣は落ち、火の手が上がっているさまが見えた。
敵は既に散り散りになり、戦闘は終わったのだと理解した。

「ナイトオブテン、ご苦労だった」
『おいおい、これで終わりとか言わないよなぁ?まだ残党狩りが残っているだろう?』
「必要ない。私の予想では、近いうちに残存兵力を集結させるはずだ。その時一気に叩け」
『楽しみはおあずけってことか?まあいい、そこにいる裏切り者たちを先に片付けよう』
「そうしてもらえると助かる。スリーも戻れ。セブンだけでは手が足りない」

そうして、味方には死傷者を出すこと無く、裏切り者のあぶり出しと捕獲、そして戦場に勝利をもたらした。

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